実証研究報告

デジタル教科書と
デジタル教材(ニューコース学習システム)の連携利用

2022年04月18日
 みらい授業フォーラムでは、杉並区立堀之内小学校の協力を得て、「学習者用デジタル教科書(教育出版)」とデジタルドリル等の「ニューコース学習システム(学研教育みらい)」の連携利用について実証研究を行った。 
 対象とした教科・学年は、小学校算数科・第4学年である。

 

背景・目的

 2019年4月、「学校教育法等の一部を改正する法律」等の関係法令が施行され、授業改善や学習補助を目的に、学校において学習者用デジタル教科書を導入することができるようになった。一方で GIGAスクール構想により、学校にはデジタル教材の導入も進んでおり、デジタルの教科書と教材のそれぞれの特徴を生かし、学習材としてどのように効果的に活用ができるのか、その研究が喫緊の課題となっている。
 また、2020年10月、文部科学省は学習指導要領コードを公開し、これにより、デジタル教科書とデジタル教材、さらにはインターネット上のさまざまなコンテンツを自動連携して利用する可能性が開かれた。この仕組みにより、教師の指導および児童生徒の学習において、個に対応した教材の利用、その教材の検索、利用までにかかる時間の短縮などのメリットが得られることが期待されるが、実際の授業で利用するには、シームレスな連携を実現するシステム・コンテンツ的な課題をクリアする必要があるし、教科書と教材を連携利用するための授業デザインの研究も求められる。
 そこで、みらい授業フォーラムでは、まずは教科書と教材を接続してみて、システム面、コンテンツ面、授業デザインのそれぞれの視点で検証し、課題解決の方向性を見いだしたいと考えた。

構想

 ニューコース学習システムは、基礎・基本の定着を目ざす自動採点型のデジタルドリルで、すべての学習内容について解説アニメーションを設けている。また、単元末テストや発展問題も用意している。これを、学習者用デジタル教科書からリンクして利用できるようにする。
 教科書と教材の連携利用を考えるには、はじめに、教科書だけでは補えないものは何かを考える必要がある。教科書は標準となる内容を示すものであるため、一人一人の個別ニーズには対応しきれないところがある。その部分をうまく補うような教材の使い方を提案したいと考え、次のような利用場面の仮説を立てた。

  • ①「単元導入」で、既習単元の解説アニメーションを見て、定着が不確かな内容を確認する。
  • ②「単元途中」で、ドリルによって学習内容の習熟を図るとともに、理解が不十分な児童は解説アニメーションで確認する。
  • ③「単元末」で、これまでにまちがえた問題を解き直したり、テストや発展問題に取り組んだりする。

 算数科におけるデジタルコンテンツというとドリルのイメージが強いが、自力でドリルに取り組むこと自体にハードルがある児童もいる。直近の既習事項であれば教科書を示して個別指導することもできるが、前学年の内容にまで遡るような場合には、学び直しに使える解説アニメーションが有効なのではないか。ドリルについては、その正誤状況を見て授業の進度を調整するような利用のしかたの可能性はあるだろうか。そのような未来の授業デザインへの問いを持ちながら、実証研究をとおして利用場面や効果を検証していくこととした。
 その際、学習指導要領コードによるコンテンツの接続についても研究をする。学習指導要領コードは分類の大枠は示しているものの、教科書やドリルではより細かな分類で問題を構成しているため、それにあった粒度になるようにコードの下位項目を設定し、教科書と教材で共有する必要がある。本実証研究により、授業や家庭学習で現実的に求められるコードの粒度についても研究を深めていきたい。
 


第1回実証研究

時期:2021年6月
対象:杉並区立堀之内小学校 第4学年(74名)
内容:算数科 第4学年 単元5「2けたの数のわり算」(使用教科書 教育出版)

 第1回の実証研究では、授業におけるニューコース学習システム(以下、ニューコース)の利用の可能性を探ることを目的に、3学級4クラスの習熟度別学習において、クラスごとの利用方法の差異や効果について検証した。

 
 事前の予想では、ニューコース利用の効果について、つまずきがちな児童への補充的な支援としての効果が大きいと見込んでいたが、実際には、中上位層の児童が最も積極的に利用していた。
 上位層、中上位層では、授業の終わりの5~10分間に、教科書の練習問題を解いたあと、余力がある児童がニューコースに取り組むという使い方をしていた。上位層にとってはやや物足りない問題であったものの、中上位層では、自ら問題を選択して取り組んだり、解説アニメーションで学習を振り返ったりする姿が見られた。
 一方、低位層では、教科書の問題だけで手いっぱいであること、ニューコースに取り組んだとしても10問1セットの問題を最後までこなしきれないこと、自らコンテンツを選択して取り組むことにハードルがあること、といった実態が明らかになった。この層の児童には教師による働きかけが欠かせないものであり、今後は、そのことをふまえた授業デザインとコンテンツ開発を検討していく必要がありそうである。
 実証研究をとおして、既存のデジタルドリルがカバーしやすいターゲットが見えてくるとともに、そこに含まれない層、すなわち上位層および低位層を取り残さないようにするにはどのようなコンテンツが求められるのかを探っていくことが、今後の課題として浮かび上がってきた。

第2回実証研究

時期:2021年10月
対象:杉並区立堀之内小学校 第4学年(75名)
内容:算数科 第4学年 単元8「式と計算」(使用教科書 教育出版)

 第2回の実証研究では、ニューコース学習システム(以下、ニューコース)への直接リンクを埋め込んだ学習者用デジタル教科書を導入し、授業および家庭学習での利用の様子を検証した。

 
 仮説として、デジタル教科書にリンクを埋め込むことで、どのコンテンツをいつ使うのかがより明確になり、授業における利用の促進につながることを想定した。さらに、児童が、教科書での学習における理解の状況(「ここはよくわからなかった」など)を自覚しやすくなり、デジタル教材に取り組む際の学習の観点がより明確になるのではないかと考えた。
 実際の授業観察および事後ヒアリングでは、デジタル教科書の利用については、起動時間のロスや、画面上での書き込みにくさなどが、授業で使用する際の支障になったことが挙げられた。特に計算単元で顕著な傾向ともいえるが、児童の思考の活性化という点で、現状では紙のノートのほうが扱いやすいとの意見もあった。
 今後は、紙とデジタルの適性を十分にふまえ、児童の考えをデジタル上で表現させる場合は、どのような場面でどのような機能があると紙のノート以上に思考を活性化できるのかを、一層深く吟味していく必要があるだろう。
 一方、デジタル教科書からニューコースのコンテンツに直接リンクする利便性は認められそうである。1時間の授業の復習として、早く終わった児童がニューコースのドリルに取り組んだり、授業の始めに、理解が不十分な児童にニューコースの解説アニメーションを見せたりするなどの利用法が工夫されていた。また、教科書の問題だと、まちがえてもやり直す児童はあまりいないが、ニューコースだと「ミス問」として残るので、その点が効果的であるとの声もあった。
 しかし、毎時利用の利便性が高まったことで、よりきめ細かく授業内容に対応するニーズが浮かび上がってきた。問題の量としては、低位の児童でも取り組みやすいように調整できること、問題の質としては、上位の児童が取り組めるように発展問題も毎時対応にすることなどが、ニーズとして見えてきた。
 なお、学校行事の都合等により、第2回の実証研究で十分に検証できなかった点もあるため、第3回の実証研究では、今回のテーマを継続して検証していくことにした。

第3回実証研究

時期:2021年11~12月
対象:杉並区立堀之内小学校
内容:小学校算数科・第4学年
   単元11「小数のしくみとたし算、ひき算」(使用教科書 教育出版)

 第3回の実証研究では、第2回に引き続き、学習者用デジタル教科書にニューコース学習システムへのリンクボタンを埋め込んだものを用意し、教科書と教材の一体的な利用の効果について検証した。タブレット端末の利用にも慣れてきて、当初のもの珍しさから現実的な利用へと関心が移り、課題がより明確になってきた時期であった。
 タブレット端末を利用する学習には大きな可能性があるが、過渡的にはうまくいかないことのほうが目立つ場合もある。例えば、タブレットと教科書、ノートなどで、児童の机の上が窮屈になっていたこともその1つである。習熟度別のクラス編成により教室移動を伴うため、使用しないときにしまっておく場所がないからである。
 授業観察をしていて最も大きな課題であると感じたことは、紙からデジタルへ学習の媒体を切り替える際に集中力が途切れる児童がいたことである。起動時間やログインの手間、通信速度の問題などによって生じるロスのため、学習の準備を整えるまでに時間がかかってしまうこと、そして準備にかかる時間には大きな個人差があり、なかなか足並みがそろわないことが原因として挙げられるだろう。このようなシステム面の課題は早急に改善し、すべての児童が学習に集中できる環境を整えていく必要がある。
 また、授業の中で、学習者用デジタル教科書がまだうまく馴染んでいないこと、そこからリンクするニューコース学習システムも十分な効果を生み出せていないことも、これまでの授業観察で感じてきたことである。そもそも練習問題の量は、教科書だけでも不足がないように掲載しているものであり、そのうえ従来から使っていた紙の教材や、さまざまなデジタル教材などもあって、過剰になっているともいえる。いまは試行錯誤の段階であるため、一時的にそのような状態になっているが、今後は、どの場面でどのような教科書・教材を使うのが最も効果的なのかを考えていくことが重要になる。その際、適切な教材を先生が選んで与えるだけでなく、児童が自ら教材や問題を選択するような学び方も視野に入れていく必要があるだろう。
 そこで改めて、「教科書の役割」という観点から実証研究の様子を眺めてみて、今後のデジタル教科書の改良と、デジタル教材との連携利用の方向性を探ってみたい。

 今回の研究にご協力いただいている学校では、紙の教科書、指導者用デジタル教科書、学習者用デジタル教科書の3つの教科書を使用している。
 ノートについては、ほとんどの場合は紙のノートを使用していたが、デジタルノートも一部利用しており、学習者用デジタル教科書やデジタルドリルに直接書き込む場合をデジタルワークシートと位置づければ、やはり3種類のノートがあるといえる。
 ドリルについては、教科書の練習問題のほかに、紙の計算ドリル、ニューコース学習システム、別のデジタルドリルがあり、さらに東京ベーシック・ドリル(電子版)、区独自のドリルが利用可能である。児童は、教科書の練習問題に取り組んだあと、自分なりに教材を選んで取り組んでいた。
 「教科書の役割」については、次のように整理できる。
○児童にとっての教科書の役割
 ・場面や問題の把握
 ・まとめ(学習した内容のよりどころ)
 ・練習問題
○先生にとっての教科書の役割
 (上の役割に加えて)
 ・授業の展開例
 ・児童の反応例
 ・カリキュラム

 これまでの授業観察では、「場面や問題の把握」の方法として、教科書の問題を指導者用デジタル教科書で提示する場合、先生が板書する場合、独自教材を用意する場合がみられた。クラス全員に速やかに問題を把握させたいときに、指導者用デジタル教科書の問題を電子黒板に映し出す方法は効果的である。一方、先生がチョークで黒板に書いていけば、児童との対話をとおして問題を把握させていくことができる。また、先生が独自教材を用意する場合は、主に低位層のクラスにみられ、ゲーム的な要素も取り入れた数学的活動をしながら既習事項を振り返らせるような授業であった。これらのことは、今後のデジタル教科書、デジタル教材の開発のヒントになる。デジタル教科書についていえば、「先生が板書するときのような問題提示の間合い」をつくれるようになれば、より使いやすいものになるだろう。デジタル教材については、習熟度別コースに合わせた導入のバリエーションを用意することが考えられる。
 「場面や問題の把握」についてもう1つ挙げておきたいのは、学習者用のデジタル教科書の可能性についてである。一人一台端末と、それらの画面を一斉表示する授業支援システムがあれば、全員が同時に意思表示することができる。先生の発問に対して、一人一人が立場を表明し、それをもとにめあてをつくっていくようなことも可能になる。
 「まとめ」の段階については、学習者用デジタル教科書を開いて確認させたい場面はあったが、タブレットの起動がそろわず、実際にはうまくいかなかったという意見が、事後ヒアリングの際に聞かれた。紙の教科書のほうが手っ取り早いということである。では、「まとめ」として利用する際に、学習者用デジタル教科書が紙の教科書よりも優れているといえるようになるには、どんな機能が必要であろうか。1つは、前学年までの内容も含めた検索性である。いま学んだことを、既習事項と結びつけながら押さえられるようになれば、よりいっそう深い学びへと向かっていける。また、紙の教科書では実現できない動的な表現を用いたまとめも、今後の可能性の1つである。
 では、「練習問題」については、どんな実態があり、どんな可能性がみえるだろうか。これまでにも述べてきたとおり、授業では教科書の練習問題だけで手いっぱいであることが多い。そのうえでニューコース学習システムの問題に取り組むとなると、じっくり取り組みたい児童は問題を減らせるようにしたり、理解が進んでいる児童は発展問題に取り組めるようにしたりするなど、よりきめ細かく問題を設定できるようにすることが要件となる。自分に合った問題を子ども自身が選ぶような学び方を目ざすなら、問題のねらいやレベルが伝わるような表示のしかたも大切である。いずれにしろ、最低限取り組ませるのは教科書の練習問題であるということは、個別最適な問題に分岐していく起点となるのは教科書であり、その時点でログを取得し、分析・活用できるようになるとよいだろう。デジタル教科書とデジタル教材の連携が目ざすものは、ドリル機能としての連携にとどまるのではなく、例えばクラス全体で習得状況が悪い問題を可視化して指導に役立てたり、単元の途中で取り組んだときにつまずいた問題を抽出して児童が自発的に再学習できるようにしたりするなど、デジタル教材がもつログ活用の機能をデジタル教科書にも取り込んでいくという方向性も考えていくべきである。
 なお、上で挙げた「教科書の役割」には、一般的な問題解決プロセスのうち、自力解決と検討の段階が位置づいていない。児童は教科書からいったん離れて、ノートや黒板と向き合うためである。しかし、引き出したい意見がうまく出てこないときには、先生の指示のもと、教科書に載っている方法を見ながら考えるようなこともある。教科書をすぐには開かない理由は、答えが見えてしまうからである。逆に言えば、開きながらでも主体的・対話的で深い学びができるような教科書であれば、自力解決や検討の段階も教科書の役割として加えていくことができる。これもまた、今後の学習者用デジタル教科書のあり方を示唆するものであろう。
 この実証研究は、次回で最後となる。引き続き、学習者用デジタル教科書とニューコース学習システムの連携利用について研究するが、加えて、大日本印刷の「DNP学びのプラットフォーム リアテンダント」を導入し、スタディログの利用の可能性についても検証していく。

第4回実証研究(5月26日更新)

時期:2021年10月~2022年3月
実施校:杉並区立堀之内小学校
学年、科目:第4学年、算数科
対象テスト:
 単元8「式と計算」
 単元11「小数のしくみとたし算、ひき算」
 単元15「小数と整数のかけ算、わり算」
 ※上記3回分のテスト結果データの活用に関する研究

 第4回の研究内容は、過去3回で行ってきた「デジタル教科書とデジタル教材の連携利用」からは少し離れ、DNP学びのプラットフォーム「リアテンダント」を用いたものとなる。リアテンダントは、紙の答案用紙をスキャンすることでPCの画面上で簡単に採点や集計ができるソフトウェアである。また、採点・集計したテストデータは瞬時にグラフ化・可視化され、教員のパソコン上で様々な観点から分析・活用することができる。分析機能の1つとして、学習者の正誤結果から個別最適な復習問題を提示する機能も有しており、今回の実証研究の中では、ニューコース学習システム(以下、ニューコース)の教材コンテンツと連携させ、復習問題の提示を行った。

■研究の目的
 教育のICT化が進められるなか、学びの過程において得られる多種多様な学習データを、指導や評価に活用できないかということが注目されている。官民が一体となって取り組んでいるテーマであるが、現場の実態に即した利便性の高いツールを提供し、実際に現場の教員が活用できるようになるためには、いまだ研究・試行が繰り返される必要があると考えられる。
 今回の取り組みもその枠組みに含まれるものであるが、学びの過程をPDCAサイクルになぞらえたとき、前回までの取り組みはデジタル教科書・教材の利活用という、D(授業)のICT化であったのに対し、今回は単元テストのデータ利活用であるので、C(単元テスト)からA(指導)の部分、言わば形成的評価のICT化と思っていただければよい。つまり、授業などで学んだことの理解度をチェックするために単元テストを行うが、その正誤データが可視化された状態で教員へ提供されることで、どのように指導・評価に役立てられるのかを研究の主目的としている。検証する主なポイントは以下2点とする。

  • ① 分析データは指導のヒント・改善に有効活用できるか。
    具体的にどのようなグラフ(データ)が、どのように利用できそうか。
  • ② 分析データは個別最適な学びの一助となり得るか。
    テストの復習問題を個々に指定する機能が、児童の学習動機促進、教員の業務効率化に結び付きそうか。

 
■実施内容
 4年生算数の3回分の単元テストを普段通りに紙のカラーテストで行い、丸付けも赤ペンで実施。次に、丸付けの済んだ解答用紙を職員室の複合機でスキャン(クラスごと)し、PDF保存していただいた。DNPのリアテンダントを利用するのはここからで、まず、PDF化された解答用紙の○×をシステムで自動判別した結果を画面上でチェックする。自動判別の内容が正しくなるよう微調整を行い正誤データを確定すると、分析システムがすぐにグラフ化処理を行い、画面上では様々な種類のグラフが見られるようになる。今回の実証研究では、リアテンダントで分析・抽出したグラフ類を資料化して、3名のクラス担任と1名の算数専任の教員に提示し、所感および分析グラフの活用イメージなどについて事後ヒアリングを行った。
 また、もう1つの検証ポイントについては、単元15「小数と整数のかけ算、わり算」のみを対象とし実施した。分析システムが、テストの結果に応じてニューコースの問題群から、一人一人に適した復習問題を選出する。選出した問題番号を記載した出力物を教員から児童へ配付する。配付時に、自分に合った復習問題であることを児童へ伝え、ニューコースを用いた復習への動機づけを図った。

《実施内容のフロー》

 

 以下に、教員に提示した分析グラフの種類を紹介する。
・度数分布表
 10点刻みの得点領域に、どのくらいの人数が分布しているかがわかる棒グラフ。
 リアテンダントでは、個々の学習者がどこに含まれるかも見える。
・大問別正答率
 大問別での正答率が3クラス並べて比較できる棒グラフ。
 クラスごとの差異がひとめで確認できる。
・小問別正答率
 小問別に、各クラスの正答率を数値で表した表。
 クラスごとに比較できるように並んでおり、クラスごとのつまずきポイントが見える。
・観点別得点率
 「知識・技能」と「思考・判断・表現」の2観点でのクラスごとの得点率を表した棒グラフ。

■データ分析結果と教員へのヒアリング内容
 教員には研究内容についてのアンケートに答えていただいたうえで、ヒアリング会を実施したところ、以下のような感想・意見であった。
① 分析データ(グラフ)の有効活用について
 「<度数分布表>や<観点別得点率>のグラフには特に有用性を感じる。例えば<度数分布表>であれば、クラス全体のなかで取り残されている子どもをすぐに発見できるので、テスト直しの個別指導をピンポイントで与えられる。同時に、別のグループ(高位層の子など)には別の宿題、というように児童をグループ分別し、家庭学習の提案をするのに便利だと思う。」との感想だ。

《度数分布のグラフ》

 また、<観点別得点率>については、「我々教員は、思考・判断・表現の観点を伸ばしていきたいという目標を持っており、注目しているポイントでもある。そのようななか、そもそも知識・技能が固まっていない状態で、思考・判断・表現を進めようとしても難しい(すべての単元が当てはまるとは言わないが)ので、こういった場合は、ベースとして、知識・技能を優先的に固めることが必要だ。一方、思考・判断・表現の得点がある程度高ければ、さらに伸ばすという方針が立てられる。担任としては、自分のクラスが観点別の視点から見て、今どのような状態にあるのかをチェックできるため、どういう授業にすればよいかを考える起点となり得る、このようなデータは有用だと感じる。」との意見であった。

《観点別得点率のグラフ》

 <小問別正答率>のデータについては、特定の小問において、クラスごとで、正答率に顕著な差が出るという現象が、単元をまたいで散見された。例えば、あるクラスでは、特定の小問においてのみ、学年平均と10%~20%の得点率の差異が見られた。また、全体を通して高得点である傾向のクラスでも、特定の小問について他のクラスより明らかに低い得点率であるということも同時に起きていた。
 このような現象(クラスごとの特異点というべきもの)について担任の教員は、「ある程度の心当たり(コロナでの学級閉鎖などで、急ピッチで進めざるを得なかった部分など)はある。ただ、このように小問単位での出来不出来がクラスごとに明示されると、自分の授業で押さえが弱かった部分のチェックができる。また、このような特異点ではなく、いわゆる難問についても、得点率に如実に表れたため、改めてそのことを数値で確認できる手段と言える。」との感想であった。
 分析データの有用性という点では、上記のような感想・見解となった。今回は単元テストを対象としたが、単元に入る前の理解度チェック(プレテスト)にも活用できそうだという。例えば、「小数と整数のかけ算、わり算」に入る前に、小数の概念の理解度を測れるテストでチェックし、結果を習熟度別のクラス分けの参考に用いるなどの利用法である。
 またコロナの影響により、今回の実証研究期間は習熟度別クラスではなく、ほぼ通常クラス別での指導だったことから、クラス間での差異がデータで明示される結果を得た。教員がこのような結果を見ることは、指導の改善につながったり、また、教員同士の情報交換のきっかけにもなるとの感想もあった。また、同校には算数専任の教員もいるが、クラス担任よりさらに、このような分析結果を役立てられる可能性があるとの声もあった。

② 復習問題の提示機能による学習の動機づけ、教員の業務効率化について
 単元15のテスト後、個々の児童に対して、テスト分析結果に基づいた復習問題を「おすすめ問題」として提示した。事前に、カラーテストの問題とニューコースのドリル問題双方の同類の問題を学習要素によって紐づける処置を施しておき、テストの分析結果から、システムが個人別に最適と判断したニューコースの問題を提示するしくみだ。今回は、復習問題の番号(ニューコースのドリルの問題番号)をリアテンダントから紙で出力、教員が児童へ手渡しする運用で行った。
 おすすめ問題番号を記載した紙を児童へ配付したあと、ニューコースを実施する児童が増えたかどうかを、ニューコースのシステム内に残るログによって調べてみたところ、2つのクラスにおいて6名ずつ(各クラス約25名中)、テスト後に取り組んだログが確認された。教員の感覚として6名という取り組み数は、通常単元テスト後に自主的に復習を行う児童の人数に比べると多い印象とのことで、児童へテストを返却したときが学習の終わりではなく、自主的な復習へつながる動機づけになるのではないかとの感想であった。今後、学習者向けのソフトが充実すれば活用できそうかという質問に対しては、子どものほうがすぐに慣れるだろうと思うし、子どもに分析結果データを返すのは、主体性を促すので良いことだと思うとの回答であった。

 以上が第4回の実証研究の結果報告となるが、その成果としては、小学校における単元テスト(カラーテスト)から得られた学習データを、教員が有効活用できる可能性は十分にあることが確認できたことである。


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