特別寄稿

脳科学の視点から見る、デジタルと学びの「いま」と「これから」

公立諏訪東京理科大学教授 篠原 菊紀

ーーGIGAスクール構想による一人一台端末の配備から数年経ち、デジタル教科書やデジタル教材の使用も増えてきました。デジタル教材(技術)を活用した学びは、先生の研究のお立場から見て、どんな効果や課題がありますか?

 これまで紙とデジタルでの学習の比較を、脳活動とパフォーマンスで行ってきました。10年ほど前だと紙優位でしたが、この時点でも20代ではそんなに差がありませんでした。デジタルネイティブが出てきたら結果は変わると考えていましたが、昨年学生が行った実験では、やはりデジタル優位でした。
 課題としては、大人が自分の体験からよかれと判断することが間違いを生んでしまう可能性があるのではと思っています。モラルパニックといえるでしょうか。
 デジタル教材は今後すさまじく改良され、使い勝手が向上していくと思います。対話型かつ自己学習向きで、考える力を格段にアップさせるものになっていくと思います。そもそも「考える」ということは、複数のモジュールで距離的に近い言葉や文脈をつなげていくことに他ならないようですから、たたき台を自力で生み出すより、良いたたき台からスタートして考えていく(ニューラルネットを作っていく)ことの方が重要だと思います。特にセンスを育てるには。

ーー先日の教科書検定についての報道にもあったように、教科書では、紙面上の二次元コードから、動画などのデジタル教材やウェブサイトへのアクセスをして学習できるような変化が見られます。こういった変化の方向性については、どのようにお感じですか?

 デジタル教材は、すぐにも音声画像テキストすべて処理するAI組み込み型になって、対話型になっていくので、「これまでの(今の)デジタル教材や、その数で議論しても意味がない」ということが、ここからの1年で急激に出てくるのでは、と思います。
 このような教材の変化は必要な変化だし、対話型AIを使って学習していく、学習しつつみんなで話し合う、論述する、という学習方式になっていくと思います。ChatGPT、DeepL、Grammarlyはすでに研究論文作成では必須アイテムになっているし、それを使うことで論文のレベル自体も格段に上がっています。
 ただ、ChatGPTなどの結果は「うそをつく」ことがあります。よくものを知っているうそつきと話をしているようなところもあり、これも文献や根拠を示すようにさらに質問をしていったり、上がってきたものを文献サイトなどで確認したりするということが必要になります。

ーーChatGPTが出てきて、デジタル教材はどう変わっていくと考えられるでしょうか?

 たとえば、教科書を読み込ませ、「いい感じの画像を組み込みながらパワーポイント資料のようにまとめてください」とかできていくでしょう。「20分くらいの練習問題をつくってほしい」と言えばつくれるでしょうし。
 ですので、今後は誰かのつくった教材を利用するというより、自分でデジタル教材をつくっていくようになるのではないでしょうか。そもそも、問題を解くよりつくる方が勉強になるのは昔からですし。新しい出力をつくっていく。脳の機能発達の出力依存性といいますか。
 ChatGPTのようなものには、著作権の問題、プライバシーの問題、それと先に話した「うそをつく」という問題がありますが、これらは開発側も一緒になって解決していくことだと考えます。今でもあまりうそはつかないようにもできるので、使うのかどうかや制限をするという話が出てくるのは、冒頭に話したモラルパニックのようなもので、本質的な話ではないといえるのではないでしょうか。

ーーこれからのデジタルを活用した学びを、どのように考えていくとよいでしょうか?また、学校の先生の役割などはどのように変わっていくでしょうか。

 ChatGPTはまあまあもっともらしいうそをつくので、「文献を示せ」とか「根拠を示せ」とか、しつこく聞くことが大事になります。結局研究の基本を踏まえるようにみんななっていくし、うそっぽいマスメディア情報のようなものは結構消えていきます。
 そこから出てきたものに対して批判的に検討しながら学習が進んでいく。どんな質問をすればいいか、どうやって正しいかを確かめたらいいか、それぞれの学習をスーパーバイズしていく、そういう感じが先生の役割になるのではないかと思います。かといって一人で学習が成立するわけではなくて、学校などに集まって学ぶこと(集団学習)の意味はかえって増すと思います。
 大学の話で申し訳ないですが、基本となる教科書みたいなのを基に、それをプレゼンしようという授業を例に挙げてみましょう。今までは教科書を読んで理解してプレゼン資料をつくるみたいな感じでした。今だったら多分もうAIに読ませていったんプレゼン資料をつくらせて、それを改良してみたいな形を、何人もが共有して、よりよいものをつくることもできます。またさらに新規の課題でどんな実験課題をつくることができるかみたいな話もできます。それ自体をChatGPTに聞くこともできるし、みんなで発想し合うということもできます。
 一人の脳の中の情報ネットワークより、ChatGPTと関わった情報ネットワークの方が大きいし、それが参加している人数分並んでいる方がもっと大きいよ、と言うとイメージできるのではないでしょうか。おそらく集団学習はいまよりももっと豊富になると思っています。ここで、一人一台の意味が本当に大きくなるだろうと思っています。

(2023年4月のインタビューを基に構成)
企画:みらい授業フォーラム、制作:株式会社Gakken

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