ICT特別号

『個別最適な学び』を実現するための教師の役割


金森かなもりつよし 先生(文教大学教授)福田ふくだ スティーブとしひさ 先生(文教大学准教授) 特別対談

金森:これからの日本の教育を考えたとき、40人学級を1人の教師が教える場合にふさわしいとされた教材や教え方など、今までのマインドセットは変わらざるをえません。それにともないICTやGIGAスクール構想が生まれてきたわけですが、ICTやAIを使って生徒一人一人に合わせた色々な教材が用意できるのは、すごくいいことだと思っています。そういう意味で、GIGAスクール構想は教師にとっても生徒にとっても大変ありがたく、その恩恵は計り知れないと思います。

福田:本当にICTは大事だと思います。単元目標、すなわち授業のめあてを個人的なものにして、それをベースに振り返りをするときに、ICTを使わないと意味ある学習改善や指導改善につなげることはできないですね。一つの教室で教師一人が担当する生徒が40人もいたら、生徒一人一人に手厚くする時間がない、全員分を把握できないです。だからICTを使うしかない、ようやく指導要領の思いが伝わって、生徒たちが自分の個性に合わせて学びたいように学べる時代が来たと思います。でもそれは教師の教え方次第というか、学びをデザインする方法にかかっているのかなとも感じますね。 

金森:確かに、多くのデジタルコンテンツの中から、この生徒にはこれがいい、あの生徒にはこの教材の方が合っている、というのは本人にはわからないので、「この生徒にはこういう能力があるから、それに合わせてこの教材を使わせよう」と教師がそれぞれの個性を考えて与えていけたらとてもいいですね。デジタルコンテンツは豊富にあるけれど、この子の目的のためには結局これがベストなコンテンツだというのを、教師が把握しておく必要がありますね。しかしそれをやるにはなかなか時間がかかるので、先生方にとっては苦しいところかもしれません。
 「個別最適な学び」は重要ですが、同時にそれが「孤立した学び」に陥らないよう留意し、多様な他者と協働的に学ぶことも期待されています。協働学習が真の意味での「協働」と言えるためには、生徒が他の生徒の意見を聞いて「そういう発想もあるんだな」と自分の考えが再構築されて広がり、今度は自分で表現していくのを可能にするような、生徒の「思考・判断・表現」までつながるような学びにしていかないといけない。そうした指導ができないと、全員が表面的に参加しているだけの授業で終わってしまうので、教師の働きってすごく難しいですね。

福田:先生方どなたも責任感が強く、自分がすべてを教えないといけないというマインドセットになりがちなことが見受けられます。それで責任を抱えきれないほど抱えこんで、バーンアウトしてしまうことがあったなら残念なことですね。ベテランの先生方の中には、大学でICTを使った教育法など学んでこなかったから少し不安になっている方もおられますが、生徒と一緒に学びながら教えればいいと思うんです。とてもいい学習経験、学習の場になると思います。

金森:ただあまりにも世の中に色々なデジタルコンテンツが膨大にありすぎて、先生方はどれを選んでいいのかわからないのだそうです。
 デジタルコンテンツはたくさんあればいいわけではなく、目標にあった活動の質で選び取る視点が欲しいしですね。授業支援ツールを使って、デジタルの中でも協働的に学べることはいっぱいあると思います。デジタル教科書と、デジタル教科書がつながっているオンライン上の動画や教材、さらに授業支援のためのツール、この3つを上手にリンクさせて、新しい教育の流れができていくのかな。協働的な学びも教室の中だけで、先生と児童生徒だけでやるのではなく、授業支援ソフトウェアをもっと充実させて豊かにしていくことが必要と思います。

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